TO | 着付け師・岸本浩加さん | Vol.1| 二人の出会い
About “TO”
HIDETO SATO DESIGNがデザインやブランディング、コンサルティングに携わっているクライアントや、クリエイティブのチームとして共にしているパートナーへインタビューをする企画です。
Text & Photo: Sayoko Hirai | HIDETO SATO DESIGN |
はじめての“TO”は、ブランディングやプロデュースを行う“キシモトヒロカジムショ” と、“おもいを受け継ぐ”をコンセプトに着物教室を営む岸本浩加さん。ご自宅にお伺いすると、着物姿で出迎えてくださいました。
丁寧に磨き上げられた階段を上ると、その先には菊の花が。なんとその日は重陽の節句で、菊の花を飾って祝うのが習慣だそう。日本的な美意識の高さに感動しました。
お部屋へ案内していただいた後にも、日本伝統のおもてなしが続きます。可愛らしいお菓子とともに、お茶を振舞ってくださいました。背筋を伸ばし、指先まで神経を行き渡らせた所作の一つ一つは、美しく無駄がありません。
心まで満たしていただいたところで、話は二人の出会いのきっかけへ。
Vol.1
二人の出会い
佐藤:たまたまでしたよね。
岸本:そう、共通のフォトグラファーがいて。
佐藤:僕がそのフォトグラファーと打ち合わせしてるときに、浩加さんが。
岸本:そう!迎えに行ったの。そこで初めて名刺を交換して、それからだったね。
佐藤:最初のご相談は「本をつくりたい」とのことでした。
岸本:そうそう。着物のコーディネート本をね。それも、生徒さんのご家族から引き継がれた着物の一家に一冊の本をね。
佐藤:それで僕は、それもいいですけど、浩加さんのそもそもの部分をデザインすることで、ブランドづくりをされたほうがいいんじゃないですかっていう話をしたんでしたよね、たしか。
岸本:うんうん。
佐藤:それですぐに「やる」となって、かなり早い段階で決まりましたよね。
岸本:そうしたら、あっという間にこんな感じになったね。
佐藤:そうですね。最初はコーディネート本だけつくるようなイメージだったのに。
岸本:まさか自分のホームページまでつくるとは(笑)
佐藤:今のところ、コーディネート本はつくってないですもんね。
岸本:つくってない(笑)今はコーディネートをさせてもらって、それをフォトブックに綴じて、お客様に差し上げてるの。そうしたら、「すごく嬉しい!良かったぁ。」って。そのお着物っていうのが、お姑さんからいただいたものがほとんどだったのね。それでフォトブックをお姑さんにも見せてあげたら、もうすごく喜んでくれて、また色々な話が広がったの。
佐藤:へぇー!
岸本:「私はこれがしたかったんだ!」って。なんだ、変にこだわらずにフォトブックで良かったんだって思った。
佐藤:しかも、段々と良くなってますよね、フォトブック。質というか。
岸本:うん、良くなってる。
佐藤:しかも低予算でできますし。
岸本:そう!価格を抑えてできるっていうのがやっぱり一番!元々は、すっごい装丁もちゃんとして、っていうのが私のイメージだったけど。
佐藤:写真の撮影まで考えると予算が大きくなるから…。
岸本:そうそう。要は気持ちっていうか、おもいが伝わればいいんだなって思った。
佐藤:同感です。
岸本:こだわりすぎて色々とプラスされたものよりも、シンプルでおもいだけをしっかり伝えるもののほうがいいのかもなって気づいた。
佐藤:その「おもい」という言葉は、当時からありましたか?
岸本:うーん…おじいちゃんやおばあちゃんからの“おもいを受け継ぐ”っていうのは、昔からあったかもしれない。
佐藤:なるほど。
岸本:そこが私の一番伝えたいところだったので。
佐藤:それをしっかり言語化したのは、ホームページをつくったときですか?
岸本:うん、ほんとにそうですね。なんで着物をやるのかっていうことを、ホームページをつくるときに考えさせてもらったかもしれない。
佐藤:では、それが自分の気持ちの整理につながったりもしましたか?
岸本:うん、それはある!何でもそうだけど、ものをつくるときって、ただ自分がやりたいからっていうよりも、どうしてこれをつくるのか、そこをしっかり持っていたほうが、そのもの自体に意味が込められると思うの。つまり、ただの「もの」じゃなくなるの。
佐藤:自分自身にも思い入れが出てきますよね。
岸本:ただ「形がいい」とか「オシャレ」っていうよりも、それを使う人たちにとって便利なものであるとか、そういう考え方が入るほうが、ね。
佐藤:あぁ!そういうことか!その中で自分の考えが整理されたり、何かしら気づきがあったりということなんですね。
岸本:うん、そうそう!
佐藤:それがつくる過程の中で整理されるんですね。
岸本:そういうおもいの入ってる商品って、やっぱり売れるんだよね。
佐藤:そうですよね、たしかに…! この“おもいを受け継ぐ”っていう浩加さんの理念は、どこからやってきたんですか?
岸本:うーん、よく考えてみると、小学生のころから着物を着させてもらってたのよね。それはお琴の発表会だったんだけど、着物が私と母のつながりみたいなものだったんです。
佐藤:なるほど。
岸本:忙しくしてた母なので、どこか旅行に出かけたりっていうのがない家だったんです。ただ、夏の浴衣は母が縫ってくれて、その過程での会話が大切だったんですね。
佐藤:ほほぉ…。
岸本:「お母さんこういう柄が好きだから、今度の発表会で仕立ててあげよう。」みたいな会話があったり、好きなものの共通点が着物だったのかもしれない。
佐藤:そういう原体験が、「ファミリー」という考え方につながっていくんですか?
岸本:そうですね、うん。
佐藤:この“おもいを受け継ぐ”っていうのは、ヒト、モノ、コトに関わるってことじゃないですか。それらに対して、浩加さんのほうから近くに行く感覚なのでしょうか?それとも、向こうから来るという感覚ですか?
岸本:えっとね、過去が私に寄ってくるって感じ。
佐藤:あぁ、そうか…!時間軸なんですね。
岸本:そうそう。母が持ってる着物も母のお母さん、つまり、私にとってはおばあちゃんから受け継いだものもあるし。その受け継いできた一つ一つの着物って、思い入れが強いものばかりなんですよ。どうでもいい着物は処分されやすかったりとか、シミができてたりとか…。でもたとえシミができてたとしても、「この着物はおばあちゃんがすごく大事にしてたもの!」って思ったら、シミ抜きしてでも着ようってなりますよね。
佐藤:なるほど。
岸本:そういう先祖からのおもいとか、そういったもの。
佐藤:そうか、やはり時間なんですね。
岸本:そう、時間なんですよ。
佐藤:おもしろいです。
岸本:でも、その「つながり」っていうのは、血のつながりだけじゃなくて、職人さんとかもなんですよ。職人さんっていったら、時代を越えて遡って、その技術とかおもいまで受け継げるの。だから、着物の“おもいを受け継ぐ”って、結構ヘビーなのよ(笑)
佐藤:たしかに(笑)
岸本:軽々しくものを受け継ぐだけじゃなくて、もう日本全体の文化を受け継ぐくらいの感覚です。
次回は、岸本さんが着物教室をされる理由についてご紹介します。キーワードは“感性”です。
岸本浩加 | 着付け師・小笠原流礼法講師 岡山市倉敷市
https://hirokakishimoto.jp
着物の念いを受け継ぐ
https://hidetosato.com/archives/2231